アジアがんフォーラム
「これまでの歩み」
グローバル化が急速に進み、情報もひとの流れも文化も瞬時に繋がる時代になった。しかしアジアで急増しているがんは、その民族の長い時間軸のなかで変容してきた生物学的要因や、文化的要因の影響をうけ、またがんという高度で医療経済の大きな負荷となる疾病ゆえに、国家ごとの医療制度の枠組みに縛られている。
生活習慣の変容が世代を超えて伝わっていくメカニズムが解明されつつある今、その実態を把握し、克服するためには、単なる疾病構造の変容を追うという医学的な問題だけではなく、社会構造や歴史構造をも追いかける広い視野をもった学知の練り上げが望まれる。
アジアがんフォーラムはよりプラクティカルな立場から、がんというアジアの重い共有課題を選び、食生活や暮らし、疾病観の違いなど文化的な差異との関係を丁寧に読み解きながら、「グローバリズムとナショナリズムのねじれ」を超克する文理融合型の研究を志向するフォーラムである。
アジアがんフォーラムは、2004年のアジアハイテクネットワーク会議(三宅淳阪大教授)との連携によるアジアがん情報ネットワークとして発足した。
2007年の安倍・温家宝会談による日中医学構想への政策提言、中国・南京でのアジア癌情報ネットワーク会議(UICC-ARO主催)開催に準備段階から参画した。
https://www.nature.com/articles/450772c#about-the-journal
2008年からアジアがんフォーラムと名称を変えて、国内外の有識者によるラウンドミーティングを重ねてきた。平行して、米国がん政策調査、中国農村部の小中学校でのがん予防教育事業、意識調査、がん患者のお化粧支援研究を行ってきた。
http://www.asiacancerforum.org/education/index.html
2009年のアジア太平洋がん学会(APCC)における第5回アジアがんフォーラムを契機に、がんと文化という学際の国際連携のアジアでのネットワークを発信しはじめた。
2010年4月から、東京大学先端科学技術研究センター・総合癌研究国際戦略推進講座・赤座英之研究室に拠点をおき、学際連携のプラットフォームとして、東大韓国現代研究センターとの共同プロジェクトの発足、京論壇との連携によるワークショップ「公共知の共創の中で考える ― 私のカラダの情報は誰のものなのか? 」などを始めている。
2011年4月より、一般社団法人アジアがんフォーラムとなり、定款に以下のように定めている。「がん情報の収集と利活用に関する学際的な国際連携のネットワークを作り、がんをグローバルヘルスアジェンダに押し上げるための活動に関する事業を行い、アジアのがん医療の向上に寄与することを目的とし、その目的に資するため、次の事業を行う。
(1) アジアがんフォーラムの開催(国際会議)
(2) 大学等研究機関における教育活動
(3) 学校保健におけるがん予防教育活動
(4) 多国間におけるがん意識調査および分析
(5) がん情報共有システムの構築(啓蒙・啓発活動)
(6) 各前号に掲げる事業に附帯又は関連する事業
アジアがんフォーラムのこれまでの活動で蓄積された概念資源をもとに同年4月より東京大学全学研究科等横断教育プログラム日本・アジア学「アジアでがんを生き延びる」(責任教員 赤座英之)の授業コンセプト作成に参加している。
これらの教育活動を通して、学際的に国際連携プログラムを確立するための「Cross-boundary Cancer Studies」を提唱している。
アジアがんフォーラムは、2009年2月の『サイエンス』電子版で取り上げられたように国際的にも早い時期からグローバルヘルスアジェンダとしてのがんについて、相互に議論を重ねてきた。2011年の国連総会の非感染症をめぐる政治宣言をうけて、第8回アジアがんフォーラムにて、内外の有識者とともにデクラレ-ションを提案して、国際社会に提言してきている。
http://www.jsco.or.jp/jpn/index/page/id/155
アジアがんフォーラム
第1回
開催日:2008年6月6日
テーマ:「アジアでがん情報を集めることの意味とはなにか」
第2回
開催日:2008年12月8日
テーマ:「アジアがん医療連携における国益の中心はどこなのか?」
第3回
開催日:2009年2月7日
テーマ:「多極化する世界のなかでアジアに向けて今何をなすべきか?国際医療連携の果たす役割」
第4回
開催日:2009年4月21日
テーマ:“Asian Challenges in Shifting the Disease Burdens”
第5回
開催日:2009年11月12日
テーマ:“What Should We do to Raise Awareness on the Issue of Cancer in the Global Health Agenda?”
第6回
開催日:2010年8月21日
テーマ:“What Should We do to Place Cancer on the Global Health Agenda?”
第7回
開催日:2010年11月3日
テーマ:「アジアでがんを生き延びる‐アジアのくらしと文化とがんと‐」
第8回
2011年年10月29日
テーマ:Seeking to Advance the Outcomes of the UN Summit “Global health as the key to a new paradigm in cancer research”,
第9回
開催日:2012年9月19日
テーマ:Cross-boundary Cancer Studies
2013年以降は、当法人の赤座英之理事がUICC-AROのDirector となったのを機に政策提言研究をUICC加盟組織として、UICC-ARO活動として展開することとなる。
アジアがんフォーラムで議論してきたことをもとに、グローバルヘルスアジェンダとしての癌の位置づけについて焦点をしぼり、UICCやAPCC,日本癌学会などを軸にしてラウンドテーブルでの議論を重ねて論文を積み上げてきた。
2013年の中国天津でのAPCCを皮切りに、Health Equityをテーマに“Economic burden of cancer in Asian countries: how should we face the current situation? の課題を各方面で議論して、社会 経済的要因とアジアのがんについての知見を学際的にまとめていく提言をUICC-AROと連携して作成した。また、2014年には、UICCのメルボルンの世界大会にて、UICCにはじめて、Universal Health Coverageを議題として提案し、その後のアジア地域にいけるがんのUHCの議論をスタートさせた。限られた医療資源のなかでのUniversal Health Coverageの適用と拡大のためには、各国ごとに強力なリーダーシップと政策が必要となるが、アジアにおける問題意識の共有のためには、社会科学的枠組みが必要であり、アジア諸国の比較研究のための大規模調査プロジェクトに携わっておられる東京大学の園田茂人先生にかかわっていただくことになった。
2015年には、9月の国連総会にてSDGsにむけた取り組みが国際社会で進むなか、がん領域におけるUHCの議論をもりあげようとインドネシアのAPCCにて「What Can Sharing UHC Concepts do for Cancer in Asia? Making UHC a Common Goal for Cancer in Asia」と題したセッションを企画した。UHCになじみのないアジア各国からの癌研究者たちとUHC課題についての意見交換をかさねた。
2016年のパリでのUICC総会では、How can we mobilize action to realize UHC in Asia? と題して、アジアにおける癌医療のUHC実現にむけた課題を討議した。
世界的潮流として官民連携の動きが活発となってきたため、東大の授業を連携させながら、WHO神戸へのUHC政策研究への公募への準備をはじめた。2017年には4月には中国にてThe First Meeting on the school of Oncology for Belt and Road Countries And Leader summit on cancer Controlに招待を受けJICAを通した中国農村部での癌教育活動についての発表を行った。
また2017年6月にはソウルでのAPCCが開催され、アジア地域の癌医療におけるUHCの実現について継続的に重ねてきた議論を踏まえUICC-AROセッション「What is the Role of the Cancer Research Community in Realizing UHC for Cancer in Asia?」を企画した。
UICCが起案してCityCancer challengeもスタートし、官民連携への機運が高まってきたことから、2018年のクアラルンプールでのUICC会議ではWhat does UHC mean for Cancer Treatment? Outlook Based on the WHO Cancer Resolution of 2017と題して、IFPMA、WHO、民間製薬などと連携したセッションの座組を考えた。
WHO Cancer Resolution of 2017から読み解く、各国の施策など、東京大学の授業とも連動させながら、内外の議論を喚起するため、2018年より官民会議をUICC-ARO主催としてスタートさせた。基本とした理念は、2009年に、APCCの準備作業のなかで起案したアジアがんフォーラムの方針であった。
http://www.asiacancerforum.org/about/index.html
2018年4月の国連大学におけるアジアがん官民対話フォーラム討議、2018年6月の参議院議員会館での議論をへて、2018 年 7 月に健康・医療戦略推進本部にて決定された「アジア健康構想に向けた基本方針」(改定)のなかでがんについての提言内容が入ったことを受け,9月に官民のステークホルダーが集まり,今後展開が予定されているグローバルな動きを念頭に置いてがんケアへのアクセスを改善し持続可能な社会の実現に向けたがん医療への取り組みにおける官民パートナーシップについて議論した。
[特別寄稿]
・「癌と化学療法」(第46巻 第4号 2019年4月)
・「癌と化学療法」(第45巻 第9号 2018年9月)
東京大学においても、2014年には、東京大学の全学横断型教育プログラム「アジアでがんを生き延びる」の受講生・教員を中心として組織して実施した日本学術振興会 日韓セミナー「Considering Iapan‐Korea Multidisciplinary Research on Cancer」を経て、日中韓3か国の大学連携のハブとしてアジアがんフォーラムが役割を果たす提案書を策定した。日中韓3か国地域事務局にこの提案書を出しているが、その後の政治状況もあり実現には至っていない。
またアジアがんフォーラムは2013年より、医療人材の能力強化と充実に向けた対策推進の柱となっている世界保健人材連盟(GHWA)との地域メンバーとして活動をしてきている。
現在、WHOではGHWAとしての活動は停止しているが、アジアがんフォーラム理事であるWHO西太平洋事務局の野崎慎仁郎らを通じて、次世代のがん医療人材不足を見据えたUHC政策提言活動を検討し、2020年9月よりバリアン社委託研究「Covid19時代におけるがん医療のユニバーサルヘルスカバレッジ日本における放射線治療の課題と展望」をUHC社会実装テーマとして取り組んでいる。
こうした政策提言活動とは別に、アジアがんフォーラムとしては、東京大学の研究活動として、授業シリーズの中から「ひとの暮らしの営み」のなかからがんという病を捉えるという視点で、2013年からシリーズでカフエセミナーを企画開催し、書籍の編纂にも携わってきた。また、2004年から交流を行っている中国の農村部においてJICA草の根支援のスキームで、採択をうけ、2014年から2017年まで「黒竜江省ハルビン市における医療教育プロジェクト」を行ってきている。
同地域の疾病観調査は、厚生労働科学研究費補助金第3次対がん総合戦略研究事業「日中両国を含む東アジア諸国におけるがん対策の質向上と標準化を目指した調査研究」の一環としてアジアがんフォーラムとして癌治療の背後にあるアジアの社会文化的背景の分析調査研究をつづけている。また、当該地域の高校生や教員を対象に、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)日本・アジア青少年サイエンス交流事業さくらサイエンス として、中国黒龍江省ハルピンの高校生5名・若手教員1名・中国伝統医療医師1名の計11名の研修を2017年10月に「癌研究を巡る日本のサイエンスの最新動向を学ぶ」として企画開催している。
JICAの国際協力の知見は、国際のみならず、地方創生にも大きな意義をもつ時代となりつつある。アジアがんフォーラムは、2018年よりハルビン市と交流を重ねている富山県砺波市立病院との連携を検討し始め、2019年4月より砺波市に「リラの木のいえ」を開設し、ハルビン市との交流やがんの学びの拠点として地域に開放している。
2020年2月4日のワールドキャンサーデーにて、リラの木のいえで開催したロータリークラブにおける経営者セミナーは、翌年の2021年2月4日のLight Up the Worldにおける世界遺産相倉合掌集落のライトアップにつながった。
地域コミュニティーにおけるがんの学び合いは、アジアガンフォーラムの長年のテーマであり、国際助成プログラムテーマ:「アジアの共通課題と相互交流 -学びあいから共感へ-」における採択は
https://toyotafound.secure.force.com/psearch/JoseiDetail?name=D21-N2-0052
当法人のこれまでの活動方針を評価していただいたものと認識している。アジアの中で日本としてどのような役割を果たすべきなのか、今後の日本の政策対応の在り方を検討していくためにも、アジアにおける確実なデータ収集及び分析、共有が必要であり、フォーラムとして、メンバーが在籍する大学という教育母体を活用し、これまで行ってきた中国での学校保健を通じた教育活動や大学での講義プログラム等の経験を活かし、アジア連携の中での教育活動の拡充を図っていきたいと考えている。